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​土地の記憶

2029年3月31日に向けて成田空港第三滑走路の新設工事が始まっている。NAAは現在の一年間の発着容量である30万回から、50万回に増やすため空港の敷地を1099ha拡張。大規模な集団移転が始まった。

 

成田空港、土地収容と聞くと1960年台に起こった三里塚闘争。

別称、成田闘争を思い浮かべるひとも多いだろう。

 

しかし、当時と異なり、現在は大きな衝突はない。なぜなら、高齢化が進み、農村の維持が難しくなっているからだ。

徐々に家屋は取り壊され、集落は更地となっていく。

 

私が初めてこの地域を訪れたのは2019年のことだ。谷間に広がる田園風景や集落内に点在する長屋門。

先祖代々の土地に生きている人々の素朴な暮らしに心を惹かれて写真を撮り始めた。

 

「このままずっとこの土地で暮らすと思っていたのに、

 まさかこんなことになるなんて。なんだかご先祖様に申し訳なくて」

 

取材を進める中でそんな声をよく耳にした。

移転対象地域に建っている家屋の多くは、先祖が植えた杉や檜を裏山から伐採して、建設資材として建てたものだ。

樹齢100年にもなる木々も多く、それらは脈々と子孫へと受け継がれる先祖からの贈り物である。

しかし、移転の際には家だけではなく、それらの木々や田畑も更地にして引き渡さなければならない。

 

先祖代々の土地に住み、その土地に生かされてきた人々の営みとその風景は2029年3月31日に向けて消失の最中にある。

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